相続開始後、親の遺産を同居の長男夫婦などが使い込んだと発覚するケースは少なくありません。使い込んだ本人らは使い込みを認めないことも多く、他の相続人との間で大きなトラブルに発展する例も多々あります。
もしも一部の相続人に遺産を使い込まれたら、どのように対応を進めていけば良いのでしょうか?
今回は、遺産の使い込みを発見した場合の法的な対処方法を弁護士が解説していきます。
1.遺産の使い込みの調査方法
同居の長男などが、本人の生前に遺産の使い込んでいた事実が発覚しても、全体としてどのくらいのお金が使い込まれたのか、すぐには全貌が明らかにならないものです。
基本的には本人に使い込んだ金額の開示や使い込んだ目的についての説明を要求すれば良いとも考えられますが、本人は否定したり協力しなかったりする例も多いでしょう。
預金者の共同相続人の一人は、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができます(最判平成21年1月22日民集第63巻1号228頁)。
そのため、そのようなときには、使い込まれた被相続人の預貯金の取引経過の開示(取引明細書や払戻請求書等の取得)を求めることをお勧めします。
取引明細書には、指定した期間の入出金や振込などの明細がすべて記載されています。明確な理由もなく一気に数十万円などの不明な出金や振込などがあると、使い込まれたと推測できます。
また、払戻請求書の時期や筆跡等で、預貯金を下ろした人物を特定することができます。
このように使途不明金を合計していけば、使い込みの全容を把握できます。相続開始の前後、5年分程度の取引履歴を遡って取得すると良いでしょう。
2.遺産の使い込みは不法行為または不当利得
遺産の使い込みが発覚した場合、使い込んだ相手に返還請求できるのでしょうか?
法律上、遺産の使い込みは「不当利得」または「不法行為」になる可能性が高いと言えます。
不当利得(民法703条)とは、法律上の原因なしに得た利益であり、その利益は正当な権利者に返還しなければなりません。
不法行為(民法709条)とは、違法な行為によって他人に損害を与えることです。
使い込んだ本人は、権利がないのに勝手に遺産を使い込んでいるので不当利得が成立します。また勝手な使い込みは違法であり、被相続人あるいは他の相続人に損害を与えているので不法行為になる可能性もあります。
なお、不当利得返還請求権は、10年で時効となります(民法167条1項)。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、知ったときから3年で時効となります。また、不法行為の時から20年経過したときも同様です(民法724条)。
相手が任意に返還に応じない場合には、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求の訴訟対応が必要なケースもあります。訴訟になったら、相手が使い込んだ証拠が必要です。取引履歴だけではなく、「出金されたお金が被相続人のために使われてない事実」も証明しなければなりません。たとえば介護の記録や入院記録などの医療関係資料が有用な証拠となるでしょう。
当事務所では、遺産相続対策に非常に力を入れて取り組んでいます。困難な遺産使い込みの事例にも対応しておりますので、お気軽にご相談下さい。